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長引く咳とは?
咳は通常患者さんが医療機関を受診する理由のうちで多い症状で、どんな方でも咳で困った経験の一度や二度はあると思います。通常風邪をひいた時などに出る咳は近所の医療機関の治療で止まる場合が多いですが、それで止まらず長引いてしまった咳や、激しくて日常生活に支障をきたすような咳で来院される方が、当院の初診患者さんのほとんどを占めます。
- 咳の分類
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- 急性咳嗽 発症して3週間以内の咳
- 遷延性咳嗽 発症して3週間以上続く咳
- 慢性咳嗽 発症後8週間以上続く咳
(日本呼吸器学会 咳嗽に関するガイドラインより)
これらの咳の原因はさまざまです。喘息については他項で述べていますので、ここではその他の咳の原因について簡単に述べてみたいと思います。
感染症による咳
風邪をひいたあとに咳が止まらないという事例は多く見られますが、多くは急性期を過ぎると治まります。なかなか改善しない感染症がらみの咳は次のようなものです。また感染後の気道過敏PIHR(Post Infectious Hyper Responsiveness)という概念があって、感染症は治療で改善したが、その際に傷害された気道が十分改善せずに咳が続く場合もあります。こういった場合は医師による治療が必要となります。
- マイコプラズマ感染症
特殊な細菌による感染症で、子供の場合しばしば肺炎を起こします。大層な病名ですが、それほど怖い病原体ではありません。しかし作用のある抗生剤が限られているので、診断・治療を受ける必要があります。 - 成人百日咳
百日咳は元々赤ん坊の病気で、亡くなられる方の割合が高く危険なため、現在は三種混合ワクチンで早期に予防が図られています。そのため乳幼児の百日咳は激減して殆ど忘れられた病気になっています。しかしワクチンの作用が切れた高校生以上の大人が百日咳に罹患する事例が急増して来て問題になっています。当院近辺では2007~2008年頃に大流行がありました。成人の百日咳は乳児の百日咳のように死亡したりする事はありませんが、激しい咳が100日前後続くため、肋骨が折れたり、咳で失神したりする重症例も見られる事があり、医師による診療が必要な疾患です。 - 結核
肺結核は意外に咳が主症状になる事は少ないものですが、気管支結核と言って、太い気管支に病巣のある結核がたまに見られます。この場合は主症状は咳です。多くの場合初期には胸部X線でも異常が見られず、診断に苦慮する場合があります。当院は結核指定医療機関ですので、心配な場合はご相談ください。 - ライノウイルス
もっともよく見られる風邪のウイルスです。通常最初に鼻水や喉の痛みから始まって2~3日で発熱がみられ、その後、咳が出る場合が多いです。多くは安静や風邪薬等で改善しますが、時にこじれて気管支炎を併発したりする場合もあります。 - RSウイルス
小児の咳、風邪の原因ですが、大人の場合は症状はさまざまです。当院でははっきりした成人のRSウイルス感染症の経験はありません。 - クラミジア・ニューモニエ
マイコプラズマによく似た症状を起こす特殊な細菌です。 - インフルエンザウイルス
インフルエンザはすべての事例で咳が出る訳ではありませんが、咳を伴う場合肺炎を起こしている可能性があるので注意が必要です。また感染後に咳が長引く事があります。
アレルギーによる咳
- 咳喘息、喘息⇒気管支喘息の項参照
- アレルギー性の喉頭炎、咽喉炎、気管支炎
花粉などのアレルギーが咽喉や気管、気管支の粘膜に起こる場合があります。多くはアレルギー性鼻炎を伴いますが、合併しない場合もあり、喘息との鑑別が困難です。 - アレルギー性鼻炎に伴う咳
2と似たような状況ですが、違うのは鼻炎の治療で改善する事です。鼻炎のため鼻汁が喉に流れ出す事(後鼻漏)があったり、鼻閉のために咳が出る事が原因になります。
慢性気管支炎・気管支拡張症
- 喫煙関連の慢性気管支炎
簡単にいうとCOPD(別項参照)の初期という事です。喫煙本数20本/日で10年から20年経つと、通常の喫煙者は殆どこの状態になります。普段から咳や痰が増えて来ますが本人は気にしておられないようです。特に冬期に風邪をひいた際などに咳や痰が増悪してなかなか止まらなくなります。対策としては禁煙が第一です。 - 副鼻腔気管支症候群
慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎に随伴した気管支炎で、非喫煙者に多いです。慢性咳嗽の形で来院する場合が多いですが、風邪などから急性増悪で来院する場合もあります。鼻炎の治療が必要で、治療には長期間かかる場合が多いです。 - 気管支拡張症
多くは2に合併しますが、単独の事例もあります。症状は無症状から、咳だけ、痰だけ、咳と痰、血痰などさまざまです。医師による治療が必要です。
胃酸の逆流 GERD
胃酸の逆流GERD(Gastroesophageal Reflux Disease)は、別名逆流性食道炎などとも呼ばれ、胸灼けの主な原因ですが、咳や胸痛の原因としても注目されています。
なかなか止まらない咳の場合、まずGERDが関与していないか検討する事が重要だと思います。GERDが関与しているかを疑う場合は胸灼けの既往がある場合、出産経験のある女性、肥満者、咳き込んで止まらなくなり、おえっと吐きそうになったり、実際に嘔吐した事例などです。
いびきによる咳
いびきがうるさい方、睡眠時無呼吸のあるような方では通常の方と比べて、咳が止まりにくくなります。従って、咳が長引く方にはいびきをかきませんかと、質問する事が重要です。原因としては、
- いびきで喉が炎症を起こしやすく治りにくい
- 無呼吸にしばしばGERDが合併する
- 無呼吸の場合に口呼吸になっている場合が多く、喉が炎症を起こしやすい
などが考えられます。当院では咳で来院して睡眠時無呼吸症候群の治療に至った例が何例もあります。
間質性肺炎
膠原病やその他の原因で間質性肺炎という病気になる事が時々あります。原因はさまざまで、予後の悪い場合も多いので注意が必要です。初期の症状が痰の絡まない軽い咳が長く続く場合が多いので、気になる場合は医師による診察が必要になります。
肺がん、その他悪性腫瘍
肺がんの初期症状として咳が続く事例は意外と少ないものですが、長引く咳の中に時々肺がんやその他胸部のがんが見られる場合があります。診断が困難な事例もあるので医師による診察をご検討ください。
心因性咳嗽
医師がいろんな治療や検査をしても診断に至らなかったり、治療作用が上がらなかった場合に最後に考えるのがこれです。咳は心理学的には不安の表象とされ、心理的なストレスを抱えている場合が多いです。診断は一目瞭然の場合と非常に困難な場合があります。